「フィンランドのナイフ色々」の項で『サーミの人々にとってレウクはツール・オブ・ライフである』と紹介したわけだが、では実際にはどの様に使われ、どれほど有用だったのだろうか?
サーメの人々にとってレウクは、最も重要な所持品であった。これはレウク無しでは生活が成り立たないといえるほど重要な道具であったためで、これ一本で狩猟、トナカイのドレッシングから、道具の修理や薪割りまでをこなした。
と、こう言うと何だかすごい万能ナイフのような感を受けるが、と同時に「なぜわざわざ他の便利な道具を使わなかったのか?」と疑問に思う方もいる思う。そこで、近代化する以前のサーメの生活について少し紹介したい。
サーメの人々が住む地域はラップランドと呼ばれ、フィンランド、スウェーデン、デンマーク、ロシアの北極圏である。気候は年間を通して低温で、夏の暑い日も+20度を超えることは無く、冬は-30を下回る。ラップランド南方にはボレアル樹林帯の北端が走り、これより北方はツンドラと呼ばれる高原・湿地帯となる。このような場所では木はあまり生長せず、大きな物でも人の腕くらいの太さである。
この地に住む人々の生活の糧はトナカイの放牧と、狩猟採集。自給自足以外に、物資を入手する方法は殆ど無い。鉄器、それも炭素鋼の道具などはさらに入手が困難な状態であった。
典型的なラップランドの風景>http://weekendwoodsman.wordpress.com/2011/11/15/lapland-july-2011-part-2-2/
この様な生活状況で、一番の足かせとなるのは生活物資。多くの物を所有すれば身動きが取れなくなるのである。つまり、必要な道具をあれこれ持つのではなく、最小限で最大効果を得られる道具が必要となる。そうした時にレウクはまさに打って付けの道具だったのである。
木を切る、薪を割る>ラップランドでは木は大きくならない。大木を切る重い斧は必要が無い。鉈のような刃物で十分である。
狩猟、トナカイのドレッシング>動物の解体、スキニング、体部の加工これらはもちろんレウクのような刃物があれば十分こなせる作業。レウクに添えてプーッコも持つことが多かったようなので、小動物や魚はプーッコを使うことも多かっただろうと思う。
木の加工、道具の修理>これもレウクとプーッコがあれば殆ど問題なかったはずだ。そもそも複雑な道具といえばトナカイに引かせるソリくらいである。
---- スティックタングではあるが・・・
ナイフに詳しい人は、プーッコもレウクもスティックタングであることをご存知かと思う。そして「レウク一本で薪の準備から何からをこなす」と聞いて、本当にそこまで使って壊れないのか?という疑問を持つ方もいるかもしれない。
ここに、Weekend Woodsmanが実践した良い例があるので紹介したい。
写真中で使用した丸太はラップランドで一般的に手に入る物よりも太めであるので、出来るのか?という疑問への回答には十分すぎるサイズである。
手順として、まずはチョッピングで短くする>バトニングで大割する>さらにバトニングで小割を作る>その後フェザースティックまで作ってみた!
という感じだ。もちろんナイフには何のダメージも起こらなかった。
この作業、まずはチョッピングで、レウクのハンドルエンドが効果を発揮する。ラッパ状の広がりを利用し、3フィンガーグリップで長く持ちチョッピング。
バトニングはブレードの長さを利用して、ポイント側を叩くことが出来る。
フェザースティックは平たい楕円形グリップと、幅広で長いエッジを利用して安定した削りを実現できる。
これだけの作業力があればもちろん動物の解体も問題なくできるはずである。そして長く反った切り刃はスキニングやその他の加工にも便利だろう。
もう一つ刃の硬さについて紹介したい。これはレウクに限らず、プーッコやフィンランドの斧にもいえることなのだが、日本の刃物の感覚からすると非常に軟らかい。どの位軟らかいのか、HRCデータが無いのではっきりとは提示できないが、硬めに見積もっても60程度までだと思う。
「研ぎやすくするために軟らかいのだ」いという理由もよく耳にするが、「-30度でも欠けない刃」が最もな理由ではないかと思う。
良い砥石が出ないから・・・という声も聞こえてきそうだが、ラップランドは水晶系の砥石が産出する土地である。砥石は理由にならないと私は推測している。
つづく・・・
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